井戸端監視カメラ



暇潰し連載 「中村春吉 自転車世界無銭旅行 その36」

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この所、走りに行く時には必ず、
左手首にお洒落な布を巻いて行っています。

モノ自体は、魔法の何でも布「Buff」ですが、
何の為に、というと・・・

洟をかむため。
常時垂れ続けるハナミズは、
拭くだけでは追いつかない。
なので、ノビノビのこのBuffで、
チーン、とかむんですな。

汚い?馬鹿言っちゃぁいけねぇよ。毎日洗えば綺麗なモンです。
暫く放置していた中村春吉、彼も汚い物扱いされ困っています。


(36)頑固な老爺(化物だよ)





その町の名はマンキポールという、この辺ではかなり大きな町です。
そこには物売る店も数軒あるので、僕はまず穀類を売る店の前に自転車を停め、
店に座っていた50歳ばかりのオヤジに向かい、
「どうか少しでも良いので米を売ってくれないか。」
と、切に頼んだが、此処もまたまた宗教上の迷信で、
異国人には食物を売る事は出来ぬ、と断る。

やはり、僕を穢れた人間だと言うのだろう、
なるほど僕は数日来、スエ臭い獣肉ばかり食べていたので、
この体も幾分スエ臭くなったろうから、今度は穢れた人間だと言われても仕方ないが、
僕はもう迷信家には懲り懲りです・・・。



迷信家など、顔を見ただけで反吐を吐きかけたくなる程だが、
此処で食物を売って貰わねば、絶体絶命だと思うので、
「どうか売ってくれ!二升でも三升でも良いから売ってくれ!」と頼んだ。
勿論僕は、全財産を費やしても良い、と貧乏財布を取り出して、
逆さまに振って見せたが、全財産とは言え大した金額は出る事無く、
財布から出たのはたったの31銭なり。

これっぽっちのはした金では、とても迷信家を釣る訳には行かない。
はて、如何すれば良かろう・・・と小首を捻った所、
たちまちに妙案が浮かんできた。



おお!そうだそうだ!とポケットを探り、
先日、砂地の中へ捨てようとしながら、まだ捨てずに持っていた銀仏を取り出し、
それをオヤジの前に置いて、
「これ、オヤジどの。
 僕の財布は甚だ貧乏だが、代わりに尊い物を持っている。
 これはブッダガヤの仏祖の寺院に詣でた時、
 寺僧様から頂いた、仏様の御尊体だ。
 これをオマエさんに渡すから、どうか米を少しばかり売ってくれぬか。」

と言うと、オヤジは銀仏を見るが早いか表情を一変させ、
ハッと飛び下がり三拝九拝なし、
「これはこれは、いとも尊き仏様。
 ようこそこの様な汚い家へ御降臨下さった。
 オマエさまは異国人のくせに、仏様をポケットの中へなんか入れておいて、
 よくも天罰が当たらなかった事だ。
 さぁ、その仏様を此方へ寄こしなされ、
 その仏様さえ此方へ渡してくれれば、
 今度は私の方が全財産を渡しても良い。」

と言うではないか。迷信も此処まで来たら極めつけと言うべきだ。



さすがの頑固オヤジも、迷信を捧げる本尊様に出くわしては敵わなかったのであろう、
僕は心中で可笑しく思ったが、これはしめたもの、と、
「いやなに、オマエさまは全財産など投げ出すには及ばぬ。
 僕はけっして欲深い事は言わぬ、
 たった2,3升・・・いや、米一斗と塩を少々くれれば、
 この仏様はすぐオマエに渡してやる。」

と、言った。

僕が欲張っても仕方なかろう。
もし僕が悪い奴で、この仏様を囮にし、この迷信オヤジを釣ってやったら、
オヤジは本当に全財産を投げ出しかねない顔付きなので、
その全財産を根こそぎ頂戴する事も出来たかもしれぬが、
こんなオヤジの全財産を頂戴したとしても、
これからの長い道中、担いで行ける訳では無し。

僕は大負けに負けてやって・・・
(ただし初めの2,3升言った米を、いつの間にか一斗にせり上げて)
それに塩若干を付録とした事で、少々欲張った積りで言ったが、
頑固オヤジはもう夢中になっているので、
「ああ、良いとも良いとも。」
と、米と塩をドンドン出して来た。
そんなに出して来られても如何しようも無いが、
この時、僕の嬉しかった事と言えば、正に天にも昇る心地!

ああ、銀仏様を砂地の中へ投げ捨てないで良かった。
あの時、祈っても祈っても霊験の無かった仏様が、
今始めて役に立ったのだ、これぞ仏様の御利生というものだろうか。



僕はすぐさま布袋を出して米を一杯に詰め込んだ。
その布袋は先日、烏共に返して貰った袋だ。
米は一斗ほどと言ったが、実際は一斗五升ほど入った。

そうして塩少々を紙に包んでカバンに入れ、
この頑固オヤジの気の変わらぬ内にと、
急いで自転車に跨って、この場を立ち去ろうとすると、
オヤジはジロジロと僕の顔を眺めていたかと思うと、
「おい、ちょっとお待ち。」と言ったのです。



ほら、オヤジどのがチョッと待った!とさ。
さてはこのオヤジどの、早速気が変わって、
やはり異国人には食物はやれぬ、その米返せ!塩も返せ!
と言うのかと、僕は驚きながら振り返ると、どうやらそうでもないらしい。

頑固オヤジ、何を思ったか店の縁の下から一本の葉巻タバコを取り出し、
それを汚い物の様に指先で摘んで、僕の前に突き出し、
「オマエさん、コレも持って行ってくれぬかね。」と言う。
これも米の付録にくれるのか?
それは有り難いが、僕は旅行中けっしてタバコは喫まないと決めた事だし、
第一、このハゲオヤジが葉巻タバコなぞ持っているのも変だし、
指の先で汚い物の様に摘んで来た所を見ると、
ひょっとしたら、どこかの便所で拾って来たのではあるかいか?
と思ったから、とにかく要らない要らないと手を振って逃げ出すと、
頑固オヤジは何処までも追いかけて来て、
「是非、是非持って行ってくれ~。」とうるさく言う。

うるさく言われれば言われる程に気味が悪い。
何故そんなに無理にくれるのだと、その理由を聞いてみると、
この葉巻タバコは便所から拾って来たものでも何でも無いが、
ハゲオヤジは、さも汚そうに、
「実は・・・数ヶ月前、一人の異国人(恐らくヨーロッパ人だろう)がこの地方へ来て、
 俺の家にこの変な物を一本忘れて行ったのだ。
 異国人の持っている物は皆穢れているから、すぐに捨てようと思ったが、
 無闇に物を投げ捨てると、仏様のバチが当たるし、
 この辺の人間にやろうとしても、持って行く奴もいないし、
 困って縁の下に突っ込んでおいたのだ。
 一体こりゃ何だ?変な形の物だ。
 オマエ様は異国人だから、持って行っても穢れにはなるまい、
 どうか持って行ってくれ~。」

と言うのです。



理由を聞いてみると、汚い物でも何でも無いから、
それなら持って行ってやろう、と手に取ったが、このオヤジはどすこい奴だ。

自分の汚いと思う物を人に押し付け、
更にオマエは異国人だから持って行っても穢れにはなるまい、と言うのは、
オマエは生まれつき穢れた人間だから、穢れた物を持って行ったとしても、
特別穢れが増える訳ではあるまい、と言うのと同じだ。

なんて失敬な奴だ!人を汚穢屋の様に思っている。
一つ驚かしてやろう、と好奇心が起こったので、
僕はわざと真面目な顔付きをして、
「これオヤジどの、オマエはこの物の性質を知らぬ様だが、
 これは恐ろしい物だよ、化物がこんな小さな形になっているのだよ。
 この先へ火をつけて振り回すと、たちまち化物が飛び出し、
 大変な騒ぎが持ち上がるのだよ。
 嘘か誠か、ひとつ火をつけて見せようじゃないか。」

と脅かすと、頑固オヤジはひゃぁ!と叫んで目を白黒させ、
「そんな化物なら、縁の下に突っ込んどいては危なかった。
 オマエ様、それを持って早く何処かへ立ち去ってくれ、
 ゴメンだゴメンだ、火をつけるなんてゴメンだ。」

と、一目散に逃げ去ってしまった。
僕はその後姿を見送って、大いに笑ったものです。



そんな訳で、その葉巻タバコをポケットに納め、
これも何かの役に立つ事があろう、と僕は歩を進めたが、
仮にも僕に米と塩を与えてくれたハゲオヤジを脅かした天罰なのか、
この葉巻タバコは例の銀仏とは違い、何の役にも立たないどころか、
この後、僕を非常に困った目に遭わせる代物となったのです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

続く。
by kaleidocycle | 2011-04-13 21:08 | 暇潰し読み物
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