井戸端監視カメラ



暇潰し連載 「中村春吉 自転車世界無銭旅行 その28」

(28)恐ろしき一夜(暗中に光る眼)





たしか真夜中の1時か2時頃、ふと目を覚ますと、
何処かでウォーウォーッ!と狼の遠吠えが聞こえる。
さては、と思って半身起こし更に耳を澄ませば、それは一匹の声ではない、
2匹か、と思ったが3匹。3匹か、と思ったが4匹の声。
これぞ、世間で恐れられる「狼の友呼び」という奴で、
ウォーッ!ウォーッ!と其処彼処から集まり、
段々凄まじくなる声は天地を動かさんばかりに。

次第次第に此方へ近付いて来る様で、神経の所為かその足音さえも聞こえる様だ。
日中なら然程怖くも無いが、夜の攻撃は堪らぬ。



さぁ大変だ!と思ったので、僕は矢庭に飛び起きたが、
既に狼は天幕の周りをグルリ取り巻いた様子。
この様な時には弱みを見せてはならぬし、
グズグズすれば此方へ侵入される恐れがある、
何としても入り口に立って防がなければならぬが、
日頃自慢の拳骨も、この時ばかりは心細かった。

どうも拳骨一つでは敵わぬ、と思ったので、万一の用意にと、
寝る時枕元に出しておいた短刀を手に取り素早く引き抜いて、
逆手に握り、蚊帳を出てそっと天幕の隙間から外の様子を窺うと、
何しろ今夜は烏羽玉の闇夜で、ただ角燈の光がその辺をボンヤリと照らしているばかり。
その光に反射して、暗中にギラギラと輝く狼の目は、数百の星を連ねた如く、
狼の数は何百匹居るか分からぬ程。



それを見て、僕は荒肝を拉がれたが、
「エイ!こんな事に驚き恐れてなるものか」と、決死の覚悟でヌッと半身を天幕の外に現すと、
数百の狼は一斉に、ウォーッウォーッ!と吼え、更に目を光らし、牙を鳴らして、
今にも一度に飛び掛らんとする身構え。

こりゃ堪らん、と僕は一歩後に退こうとした所、
暗中の横の方からたちまち一頭の狼が、僕の喉笛目掛けて飛び掛って来た。
僕はヒャァ~と叫んで身をかわし、殆ど夢中で短刀を下から上へと突き上げたのだが、
運良くも短刀の切っ先は、その狼の横っ腹をつんざいたので、
狼は血煙を立てて、ドッと僕の足元に落ちた。



しめた!と思ったから、僕はすぐさま半死半生の狼の後ろ足を掴んで、
エイと彼方へ投げやると、諸君もご存知の通り、狼は共食いをするので、
数百の狼はそこを目掛けて真っ黒に集まり、瞬く間にその狼の屍骸を喰い尽し、
一旦血を舐めた勢いはますます凄まじく、数百頭が足並み揃えて僕に向かって来た。

こう一度に向かって来られてはとても敵わない。正直な所、僕は大いに慌てました
こりゃ堪らん、と天幕の中へ逃げ込んだが、如何したら良いだろう・・・。
狼も続いて天幕の中に侵入して来る。

猛獣の最も恐れる物はだ、をもって防ぐ他にない。
嗚呼、この様な事になると分かっていれば、生意気に短刀など出しておくより、
何故松明兼用の爆裂弾
-即ち予てから用意してあった、ブリキ缶に石油を浸した高野豆腐を詰めた、手製の武器-
を出しておかなかったのだろう、と悔やんだがもう遅い。
とてもそれをカバンの中から取り出す暇は無いので、
僕は九死に一生の場面を何とかするべく窮策を考え、
いきなり吊るしてある蚊帳を引っ剥がし、マッチを擦ってその一端に火をつけた。



この蚊帳は僕の大事な財産だ。
無銭番長と謳うからには、今ここで蚊帳を焼いてしまっては、
この後の長い道中、どんなに困るかしれないと思ったが、
今は命を棒を振るか振らぬかの場面だ、その様なケチな事は言って居られぬ!

僕は思い切って火を放つや否や、その蚊帳を引っ掴んで振り回し
オッ!と喚いて、群がる狼の真ん中へ飛び込むと、蚊帳は炎々と燃え上がり、
猛火パッと明るく四方を照らしたので、さすがの狼共もたまげたのだろう、
サッと八方へ逃げ散り、尾を垂れ牙を鳴らして僕を遠巻きに取り囲み、
ウォーッウォーッ!と吠える声も、以前とは少し変わっている。



その間に僕は再び天幕の中に走り込み、
素早くカバンを開いて取り出したのは、数個の手製爆弾
コレさえあれば大丈夫、と待ち構えていると、
蚊帳は燃え尽き易いので、その光が少し暗くなり、狼共がまた群れを成して押し寄せて来る。

此処がチャンスだ!と、僕は新たに出した武器に火を点け、
縦横無尽に振り回せば、手製爆裂弾の効能たるや著しく、
猛火は炎々と手中に燃え上がり、振り回す毎に花火の如く、また流星の如き火玉は、
八方に飛び散り、地上に落ちてボッボッと其処彼処に油煙を立てて燃え広がる、
何しろ高野豆腐に石油をタップリ浸したので、火持ちは抜群、火勢も中々猛烈だ。

その真ん中で肩を怒らし、狼に負けじと目を光らし、片手に燃え上がる炎を掲げている様は、
傍から見ると、不動明王の様に見えたでしょう。

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続く。
by kaleidocycle | 2011-01-25 19:38 | 暇潰し読み物
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