井戸端監視カメラ



暇潰し連載 「中村春吉 自転車世界無銭旅行 その25」

(25)乞食根性(インドの悪風)





なるほど、金持ちには高く売って貧乏人に安く売ると言うなら、
一種の社会主義論者の賛成を受けるかもしれぬが、
彼等インド人の商法は、社会主義から割り出したものでも何でも無く、
貧乏人にも高く売るが、金持ちには更に高く売る、
外国人と見たら何が何でも高く売りつけて暴利を貪ろうと言うのだから憎い。

僕は腹が立ったから、「もう要らん!」と怒鳴って、
一枚も買わずにさっさと立ち去りますと、例の商人は大いに怒り、
後ろから大声で「乞食~!乞食~!」と罵りましたが、どちらが乞食だか分からん。



大体インド人は欲が深い。
その証拠に、僕の様な無銭の人間でも、街を歩いていて、
チョッと土人に道を聞くと、土人はすぐに「ボクシース」と言って手を出します。
「ボクシース」とはインド語で「ありがとう」と言う意味である。
此方から何もやらぬのに「ありがとう」とはおかしいな?と調べてみると、
土人はチョッと道を聞いただけの人にも、多少の謝礼を要求する、
そして、やらぬと非常に怒って罵る、本当に乞食根性とはこの事でしょう。

この様な乞食根性の国民が沢山いるからこそ、インドは今日の如く衰退してしまい、
他国から陵辱を受けるのです。



インドの悪習については、調べた事もずいぶん沢山あるが、あまり多くは申しますまい。
これから僕の進んで行く、インドのズッと内地の方に入ると、
女房や子供を物品同様に平気で質に入れる種族が居る。
もっとも、日本でも娘を売り飛ばして酒を呑む親父も居るが、
いやしくも人間と名の付く者を、物品同様に取り扱うとは甚だ酷い。



また、裸の行者というのがある。
全身に灰を塗って、宗旨の為に難行苦行するのは良いが、
婦女を辱め、泥棒をするのを天職と心得ている不届き千萬な信者も居る。

特に甚だしいのは、貧乏で食う物が無くなると、生きながらにして女房の尻の肉を削ぎ、
それを煮たり焼いたりして、舌を打ちならし食べる亭主。
女房は夫が食えなくなると、尻の肉を献上するのを義務と心得、
その蛮的行為をもって、自ら貞女の鏡と威張り、終いにはことごとく尻の肉を失い、
尻無し女となって死ぬ者もあるとの事。



諸君も知っての通り、インドはお釈迦様の生まれた国で、
今でも仏教の勢力は凄まじく、カルカッタ付近一帯は、
日本の今の仏教とは少し異なる。

インド教とでも言う様なある種の仏教信者で満たされ、
その信者の多くは外国人を嫌い、異教徒を畜生の如く罵り、
中には外国人・異教徒の手に触れた物は、全て不浄物だと言って手を触れず、
もし手を触れたなら、天罰がたちどころに落ちると恐れている迷信家も居る。



僕がインドに渡った頃は、あの有名な飢饉の最中で、その惨状は目も当てられず、
日本からも大分寄付金や米の類を送って救助を試みた篤志家も居るが、
迷信の酷い奴になると、
「外国から来た米は穢れている!異教徒の寄付金で買った食物もやはり穢れている!
 そんな物を食って生きているより、死んで極楽浄土の蓮の花の上に行った方が良い!」

と言って、骸骨の如く干からびて死んだ馬鹿者も沢山居たそうだ。
なるほど、そんな馬鹿者は死んだ方がましかも知れぬが、
宗教上の迷信も、ここまで来ては国家を滅ぼす原因ともなるのである。



そんな事を観察している内に一週間あまりが過ぎ、
自転車の大修繕も出来上がったから、もう大丈夫、
僕はカルカッタを出発して、ブッダガヤに向かう事になった。
それは4月1日の事である。

出発前、カルカッタ新聞社では、僕の自転車で行く様を写真版にし、
それを印刷した絵ハガキを500枚ほど贈ってくれました。
これには「サンキュー!」と言わざるを得なかった。

また金子君は、
「これから炎熱地を旅行するのに、そんなブ厚い洋服を着ていては堪るまい。」
と言って、この地方のイギリス人が好んで着用している、
「カアキ服」なる軽快な旅行服と、革製の水袋を贈ってくれたのです。

カアキ服を着用した所、俄かに体が涼しくなる様で、その心地良い事は言うに及ばず、
また水袋は僕もウッカリしており、日本を出る際用意して来なかったのだが、
コレを得た為、この後どれ程助かったかしれません。



僕は金子君に深く感謝の意を述べ、さぁ自転車に跨り住処を離れようとしたその時、
金子君は何を思ったか「ちょっと待って下さい。」と言って、奥の方に駆け込み、
綺麗な瑠璃の水盤に清水を満たして持って来て、いきなりそれを僕の頭に振り掛けた。
僕は驚きました。こりゃ如何した事か、と。
日本では乞食や痩せ犬が来ると、意地の悪い下女などは水をぶっ掛ける。
僕もシンガポールでは下女泥棒と間違われ、窓から水をぶっ掛けられたという例もあるが、
此処で金子君に水をぶっ掛けられるとは不思議だ。

金子君は気が狂ってしまったのではないか?とその理由を聞いてみると、
金子君は決して気が狂った訳では無く、また少しの悪意さえある訳でも無く、
僕の前途を心配し、これからの長き熱帯地方の旅行中、
僕が暑気に中てられぬ為にと、水をぶっ掛けお呪いをしてくれたのである。



僕はこれを聞いて意外な思いがしました。
金子君の如き文明的紳士でも、お呪いみたいな事をやるとは、チョッと滑稽だとは思ったが、
よく考えてみると、こうまで僕の身の上を気遣ってくれる人が居るかと思うと、実に有り難い。
そもそも僕は、本国横浜を出発する時には福井忠兵衛君に火打石の火で体を清められ、
先日ラングーンにおいては、高橋君は塩を掛けて天の祝福を祈ってくれ、
今また金子君から水をぶっ掛けられて、暑気に中らぬお呪いを受けた。

これで僕の体は、火と塩と水との洗礼を受けたのであるから、
前途に如何なる困難が横たわっていようとも大丈夫だ!
天はきっと僕を保護するだろう。

僕は元来、お呪いなどは何とも思わない性格だが、
この時は、何だか全身にグングン勇気が湧いて来るのを感じたのです。

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続く。
by kaleidocycle | 2011-01-18 20:10 | 暇潰し読み物
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