井戸端監視カメラ



暇潰し連載 「中村春吉 自転車世界無銭旅行 その24」

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天気予報通り、雪になりましたな。

こんな日にも拘らず、足を運んで頂いた皆々様には、
感謝感激雨霰・・いや雪か?であります。


まぁしかし、こんな日に外に出ず、
家に篭っているのが一番です。

と言う訳で、本日も暇潰し連載、参りましょう。


(24)大象の労働(黄金の伽藍)





僕はいよいよ、此処からカルカッタに向かって自転車旅行を始める積りですが、
税関を無税で抜け出したのが可笑しくもあり、嬉しくもあったし、
財布の5円と86銭5厘は無事助かった、それはタダ儲け、という様なものだから、
その日は思い切って無銭では無い宿屋へ威張って泊まり、
ブラブラ市中を見物して回ったのだが、この地で珍しかったのは、象が労働する事である。

この地の山奥で、土人が沢山材木を切り出し、
切り出された材木は、大概長さ14,5間から20間(約26m~36m)もある。
それを象は5本も10本も背負い、遠い道のりをのそりのそりと海岸まで歩いて来るが、
やがて海岸に近付くと、象使いは縄を解いてドシンドシンと材木を地上に落とす。
すると象は、その材木の一端を鼻で巻き、ギーっと回して程よい所に至ると、
ブーンと後ろ足で蹴るのであるが、何しろ大した力で蹴るのだから、
ただ一蹴りで、さしもの長大な材木もゴロゴロと凄まじき音をして転がり、
ドボンと海中に落ちる。

数十本落ちると、それで巨大なイカダを組み、各地に回送するのである。
その間、象使いは始終鞭と口笛とで象を使役するのだが、それは実に上手いもんです。



また、当地に驚くべき一宇の黄金伽藍があった。
周回凡そ1マイル(約1.6km)ばかり、ことごとく黄金の延べ板で包まれているのだから、
数十里遠方からでも、金色燦爛として輝いているのが見える。
天気の良い日などは太陽に反射して、まるで昔話の「燃ゆる城」の様に見えるとの事。
恐らくこれは世界第一の黄金伽藍であろうと思う。

この地では、高橋徳太郎という人が僕の旅館へ訪れて来た。
この人は当地で商売を営んでいる日本の商人で、色々珍しい事を話して聞かせてくれました。
珍しい話を聞き、色々珍しい物を見物した後、
僕はカルカッタへ向かって自転車旅行を始めましたが、
自転車に跨って出発する時、高橋君は一握りの塩を僕の頭にふり掛け、
「天よ、この冒険旅行家に特別の保護を与えたまえ!」と祈ってくれました。

ラングーンからカルカッタまでの間は、随分道路険悪で、
木の根・岩角などがしばしば僕を苦しめたが、
それ位の困難は冒険旅行では普通の事だから、此処に事事しくは述べますまい。
(いや、そこやろ!大事なんは!)



ただ大いに困ったのは、カルカッタへ着いた時、
僕のランブラー式の自転車は、大破損をしてしまっており、(だから何で?ってよ。)
用意してきた小道具位では、どうしても修繕が出来ぬ。
財布の5円と86銭5厘は、先日ラングーンの宿屋へ泊まった時、
大半を使い捨て、余す所1円に足りない。

これでは修繕を頼む訳にも行かず、
「ハテ困った事になったわい。 
 こんな事になると分かって居れば、宿屋などに泊まらず、
 金を残しておくのであった。」

と後悔したが今や遅く、何か工夫はあるまいか、と、
ボロ自転車を引き摺って、ブラブラ市中を歩いていると、
丁度その時通り掛かったのは、当地在留の金子君という我が同胞の一人。

思いがけず金子君に見付けられ、
「それは困っているだろう。とにかく僕の家に来たまえ。」
と、親切にも彼は、初対面の僕をその住処に案内してくれました。



カルカッタ市街の端にある金子君の住処は、中々綺麗で風流な家です。
無風流な僕が其処へ飛び込んだのは、猛獣が花園へ飛び込んだ様なものかも知れぬ。
それにも拘らず、金子君はまるで旧知の間柄の如く、色々世話を焼き、
「いつまででも僕の家に泊まって居れ。」と言う。

いつまでも泊まるのは御免だが、当分ご厄介になるかも知れぬ、
何処へ行っても、一番頼もしいのはやはり我が同胞である。

金子君は僕の事を吹聴して歩いたもんだから、来訪者は続々来る。
中でも当地の新聞社では、僕を招待して、一幕ばかり旅行談をやらせ、
また、その旅行談を翌日から連載すると言うので、若干の報酬金を持って来ました。

普通であれば、そんな報酬金は受け取らないのだが、
自転車が壊れ進退窮まった場合、手足を動かして金を作るのも、
口を動かして金を作るのも同じだと思ったから、
有難うとも何とも言わずに受け取り、その金で自転車の大修繕を頼む事にしました。



自転車の大修繕を終えるには一週間ほど掛かる、と言うので、
その間、金子君の家に厄介になり、毎日毎日市中をブラついては色々な事を視察しましたが、
この地で最も売れ行きが良いのは「蝙蝠傘」である。
そして、その値段の安い事はビックリする程で、
日本で売買される半値であり、その質も悪くは無い。

この地方で製造する物とも思われぬから、何処からか輸入するのであろう、と、
色々調べてみたが、どうしても分からぬ。
思うに、何処か物価も賃金も非常に安い国で製造し、
この国に密輸入して来るに違いない。

また、日本から輸出する産物では、唐辛子が一番有望であり、次は染料であろう。
何故唐辛子が一番有望かと言うと、だいたいインド人はその宗教の為、
多くの人は肉食を嫌い、精進料理では様々の趣向を凝らし、中々ご馳走も出来る。
且つ、熱帯国人の常として、絶えず刺激物を用いるから、唐辛子の類が盛んに売れるのだ。



何しろカルカッタ市は、インドでも有名な港で、日本とは人情・風俗もだいぶ違っているから、
僕はその地に滞在中、随分奇妙な目にあいました。

ある日の事、僕は日本で言う所の市場の様な所を通っていると、
道の両側には色々な物を売る露店が沢山出ている。
僕は手拭いが一本欲しいと思った、勿論日本風の手拭いは無いから、
インド産のフンドシの様な布を売る露店の前に立ち寄り、長さ3尺ほどの布を指差し、
「この布は幾らだ?」と問うと、
「一枚10エークバイだ。」と答える。
インドの貨幣で、1エークバイは日本の1銭に当たり、1アンナーは4銭、
1ルピーは60銭強に当たる。

一枚10エークバイとは、随分高い布だと思ったから、
「おい、足元を見るな!それでは2枚で幾らに負ける?」と言うと、
「2枚なら、25エークバイだ。」と、いよいよ高くなる。
それでは負けるのでも何でもない、ハテ変な事だわい、
日本では多く買えば、割安になる事はあっても、割高になる心配は無いが、
この国では多く買うほど割高になるとは不思議だ。

「それは如何言う訳だ?」と聞くと、インド商人はその問いに答えようともせず、
僕の顔をジロジロ見て、
「お前さんは、金持ちなんだろう?」と言う。
左様!将来は金持ちになるかも知れぬが、目下財布の中身は1円足らず。
しかし、僕は生まれて始めて「お前さんは金持ちだろう?」と言われたので、
わざと金のある風な顔をして、
「何故そんな事を聞くのだ?」と問い返すと、
「それは他でも無い、1枚買う人より2枚買う人の方が、
 財布に沢山金を持っているに違いない。
 金を沢山持っている人には高く売りつけて儲けるのだ。
 お前さんも、2枚買おうと言った以上は、1枚買うより多く金を持っているのだろう、
 そうと分かったからには、もう1枚でも10エークバイで売る事は出来ぬ。
 15エークバイお出しなさい。」

とは、なんと欲の深い商法だろうか・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

続く。
by kaleidocycle | 2011-01-16 20:55 | 暇潰し読み物
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