井戸端監視カメラ



暇潰し連載 「中村春吉 自転車世界無銭旅行 その7」

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ボケッとしている間に、
クリスマスのライトアップが始まっておりました。


コレは空井戸近くの平安女学院さんの、
教会のライトアップです。
「クリスマスなんて関係ねぇや!」
と嘯きたい所ですが、
クリスチャンの人にとっては、
大事な時期なのでしょうね。

と、そんな綺麗に飾った学校もありますが、
我等が中村春吉は、何か適当な学校をつくったらしいです。
という訳で、本日も100年前の春吉ワールドへレッツゴー!

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(七)蛮な先生(僕が校長様だ)








僕の設立した外国語研究会は、この無骨漢が会長になりすましているのだから、
内部が整理整頓されていない事は、言うまでも無い。
校舎はまるで豚小屋同然、しかし例の大看板が遠くからも見えた為か、
それとも外国語大流行のお陰であったか、毎日毎日入門者がドヤドヤ来る。

3,4ヵ月の間に、在学生の数ザックリ500人となっていた。
したがって、月謝の収入も大分と多く、外国人に高い月給を払っても、
幸いに自分の貧乏財産を棒に振る様な事は無かった。

いや、その時少し辛抱して金を貯めたなら、無銭冒険旅行などせずとも、
楽に世界一周する位の旅費は出来たかもしれないのだが、
僕はそんな事は大嫌いなので、入って来た金は全て使ってしまった。
僕は学校をたてて、それで金を儲けようなどというケチな考えは無い。



意外にも多くの学生が集まって来たので、僕は後に大事業を始めた時、
共に事業を進めて行ってくれる様な人物は居ないかと、
密かに目を配っていたが、なんとまぁ世間にはしっかりした人物の少ない事か。

少し根性のある奴は性格が悪い、人の善い奴はグニャグニャしている。
あぁ・・彼等は何の為にこの世に生まれて来て、何の為に学問するのだろう、
ただ喰う為に学問をするのであれば、頭を痛めて青い顔をして本を読むより、
百姓でもした方がよほど気が利いている。

百姓は田畑を耕して米を生産するが、ヘッポコ学者は米一粒作る方法も知らず、
逆に百姓が汗を流して作った米を喰い潰す。
彼等は米喰い虫だ、虫の様に生きている他、何もしない位なら、
むしろ首をくくって死んでしまった方が国の為になると思う。
(無茶言いおんなぁ・・・)



少し過激な議論かもしれないが、今や日本は住民が日増しに増えて来て、
土地は狭くなる、食物には不自由来す、
そろそろ社会問題などの声も聞こえて来る時にあたって、
海外に勢力を広げるという方法も知らず、うじうじして非生産的に生きている、
そんな虫の様な輩を養っておく義務は無いと思う。

とにかく、この世に生まれてきた以上は、何か大事業をやって、
生きているのか死んでいるのか分からぬ様な、
米喰い虫とならぬ覚悟をせねばならん。



話はついつい脇道にそれたが、ザックリ500人集まって居る学生の中には、
勿論めぼしい人物が全く居ない訳ではない。
僕は500人の中で、たった7人、これは!と思う人物を見つけた。

この7人はいつか必ず何かを成し遂げるであろうと観じたが、
時が経ち、最近会ってみると、そろそろ頭角を現しつつある。
彼等は、僕が大事業を始めた時、
僅かながらも力をかしてくれる人間だと、望みを託して置くのです。



僕が見た所だけでも、人材はこの様に欠乏している。
日本がこれから世界に雄飛しようという際、こんな有様でどうするのだ。
大いに活動しようとする国家の、最も大事なモノは、
金よりも何よりもまず、偉大な人物である。

これは他人をあてにしていてはいけない、
まず、この中村春吉が偉い者になって、
国家の為に尽くさねばならぬと思った。
お互いに修練を積もうではありませんか!



僕は、我が外国語研究会に、人材の少ない事を見て、
つくづく失望した。
しかし、一旦学校を開いた以上は、失望したからと言って、
勝手にしろ、とは言ってられない。

せめて学問の方だけでも、出来る限り伸ばして行きたいと思ったから、
時々、大勢の学生を引き連れて、波止場付近の外国商館だの、
港内に停泊している外国商船だのへ送り込み、
色々な方法で語学練習の実地を積ませた。



僕は何事も実用的でなければならないと思う。
最近の外国語教授法など、非常に馬鹿げた事が多い。
何もそんなに難しい理屈をこねて、学生を苦しめ、学生に青い顔をさせ、
しまいには肺炎になる様な憂き目にあわせなくても、
教師たるもの少し考えればもっと巧妙な方法で、
簡単に語学の真髄を会得させる事が出来ると思う。

僕は長年研究した結果、一年もあれば一ヶ国の外国語に、
一通り熟練する事の出来る方法を発明したから、
どうかそれを書物にして、公にしたいと望んでいるが、
ご存知の通り、文を書くのがあまり得手で無い上、
年中諸国を飛び回るのに忙しい為、
ついに今日までその目的を遂げる事が出来なかった。

いつかアナタのお力添えを頂き、
いっちょやってみたいと思うのです。
これもきっと、国家の利益になります。



その様な事で、我が外国語研究会は日増しに盛んになるばかり、
もし何の異変も無かったら、僕は更に2、3年は学校の校長で居たのでしょうが、
天は、この頑丈な体格を持った僕に、
いつまでも校長様の様な優美な仕事をさせてはおかない。

ここに、僕の冒険旅行を早める動機とも言うべき、ある珍事が起こった。
それは何かと言うと、明治31年(1898年)9月の事である。
僕は一週間ほど隣国を旅行して、再び校舎に帰ってみると、
その留守中に、外国人教師と学生の間に衝突が起こって、
学生は皆、ストライキをやっている。

本当に現代の様に師弟の常識が乱れているのは嘆かわしい事だ。
それは教師も悪いが、学生も悪い。
職工ではあるまいし、少々不平があったからといって、
ストライキなどやって脅かそうと言う様な手段があるか。



そこで僕は一同を集め、そんな馬鹿な真似はするな、
不平があるなら男らしく堂々と議論すればよい、
論じて負けたなら黙って服従するか、
服従が嫌なら、潔く去るのが男子の取るべき道だ。
 
不平と学問修行は別の事だ、
一日修行を休めば、休むだけ諸君の損になる、
何も不平を言う為に学校を休んで騒ぐまでも無いだろう。
また教師も教師だ、下らぬ屁理屈並べて空威張りする程でも無いだろう。



と、色々言って聞かせたが、双方グズグズ言ってなかなか聞かない。
そんな生意気を言うなら、今日限りこの学校をぶっ潰してしまうぞ!
と言ったが、やはり聞かない。

僕は大いに腹が立った。
えい面倒くさい、とその日限り外国語研究会を解散し、
大看板をブチ割って、校門をピシャン!と閉めてしまった。



さぁそうなると大変な騒ぎである。
あんな事を言っても、まさか一思いにぶっ潰す様な事はあるまい、
と思っていたのに、意外な事にスパっとぶっ潰してしまったので、
外国人の教師は青くなって折れて来る、
学生はワイワイ押し寄せて、もうけっして我儘は言わないから、
学校を開いてくれ、と頼んで来たが、もう駄目だ駄目だ。

男子が一度潰すと断言してしまったものは、
今更おいそれと立てられるものか。
既に看板も打ち割ってしまったから仕方ない、と、
沢山居る学生を皆、他の所に転校させた。



今から考えてみると、僕も随分乱暴な事をやったものだ。
看板などいつでも新調出来る、仮にも学校の先生と名の付くものが、
あんな無鉄砲な事をやるのでは失格だが、
その時僕はまだ若かったから、血気に任せてやってしまったのだ。

しかし、僕が外国語研究会を解散したのは、
何も好んでやった訳では無い。
勢いに任せて結果そうなったのは、天が僕に、
早く冒険世界一周をやれ、と命じているのではないか。



元々、僕がどうして世界一周をやりたいと願っていたのは、随分前からの事である。
けれど、なかなかその良い機会が来ない、
良い機会は待っていたとしても簡単にはやって来ない。
自ら進んで、機会を作らなければならない。

そもそも僕が世界一周をやりたいと考え出したのは、
まだ子供で、居留地の諸商館を渡り歩いていた時からの事である。
その時から僕はちょくちょく商売をしようと試みていたが、
何事も対外的にやっていた。



例えばここに9銭で仕入れて来た飴がある。
これを10銭で売って、1銭儲けてやろうと考えた場合、
相手が日本人で、10銭は高い、9銭5厘にまけろと言っても、
僕はまけない、嫌ならやめろと引っ込めてしまうが、
相手が外国人で、10銭ではどうしても買わぬ、
9銭5厘にまけたら買う、と言う場合には、
僕は1銭儲ける所を5厘にまけて売ってやる。

それについて、中村春吉はけしからん奴だ、
等と悪口言った人も居たが、それは大いに間違っている、
悪口を言う人こそけしからん人だ。



何故かと言うと、例え1銭儲けた所で、
相手が日本人であれば、それは内輪の事だ。
つまり家族の中で金のやり取りをしたも同然、
日本帝国という点から見ると、少しも国家の富を増やした事にはならない。

しかし相手が外国人なら、1銭儲ける所を5厘で勘弁してやったにしても、
その5厘という利益は、外国人の財布から取り上げた事になる。
そうして外国人はペロリと飴を食べてしまえば何も残らないが、
日本帝国には5厘だけでも富が残ると言うものだ。



小僧の癖に、生意気な事を考えたものさ。
けれど一理あるでしょう、
こんな考えが段々進んで、僕は世界一周を企てる様になったのです。
もっとも、その頃は今日の様な大きな希望では無い。
二十歳前後の時に始終考えていた事の方が、
子供っぽくて、よっぽど面白いでしょう。

僕は不思議な因縁で、この世界のこの日本に生まれて来た。
したがって、この国家の保護の下に、日本の米を食い、
日本の生産物を消費して生活するのであるが、
これから80歳まで生きるものとして、どんなに倹約しても、
2万円内外の生産物を消費するだろう。
贅沢をすれは、5万円か10万円かわからぬ。
それだけの生産物をただ消費しただけで、
虫の如く死んでしまっては申し訳無いわけだ。

男子、この世の中に生まれて来て、何のしでかした事も無く、
国家の恩義にすら報いる事が出来ずに死んでしまっては、
天に対しても申し訳無い訳だ。



申し訳無いと思いながら冥土に旅立っては、
大往生を遂げる事が難しかろう。
これは、自分の消費しただけの物は、自分の力で稼ぎ出し、
ノシを付けて国家にかえしてやらねばならぬ。

もし、運良く行ったら、その千倍に値するだけの功労をたてて、
国家の恩義に報いて死ぬのが、男子たる身の義務だと思う。



さぁ、その義務を果すにはどうしたらよかろう?
学者になるとか軍人になるとか、色々な道があるが、
僕はどう考えても学者になる柄ではない。
だかっらと言って僕の経歴は、今更軍人になったとしても、
充分にその技量を揮う事は出来ない様だ。



ところで、僕はつくづく考えるのだが、
少々自惚れているかもしれないけれど、
この無骨漢、不思議にも商業については一種の才能を持っている。
ウンと頑張ったら、二十世紀の紀伊国屋文左衛門になるのも、
あながち不可能な事ではあるまい。

しかし、内地でこせこせやる商売では、本当に国家を富ます事にはならない。
商業をやるのであれば、海外貿易をやらねばならぬ、
海外貿易をやるには、国内の事情に通ずると共に、
国外の事情にも通じねばならない。
外国の事情を知るにはどうしたら良いだろう。

百聞は一見にしかず!自ら海外旅行し、
その地理、人情、風俗、商業などを、
実地観察するのが一番近道であると考えた。



この様に、世界一周と言う事は、
かなり前から始終僕の脳裏に往来していた問題であるが、
どうしたらその目的を遂げる事が出来るだろう、
ただ一口に世界一周と言ってしまえば何でも無いが、
金も無い身には、やろう!となっても簡単に出来る事では無い。

長い間その良い機会を狙っていたが、良い機会はなかなか来なかったのである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

続く。
by kaleidocycle | 2010-12-06 18:42 | 暇潰し読み物
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℡ 075-755-6627

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