「朝日で目が覚める様に、
カーテン開けといたろか?」
という寝る前の家内の勧めを断ったのは、
起きる自信があったからとかではなく。
そもそも起きるべき時刻が朝では無く、
未明でさえない
深夜3時であったから。
車通りも消えた国道を抜け、高速道路に乗ったなら一路西へ。
姿勢を変える事無く、
ただただ真っ暗な道を真っ直ぐ行く。
水風船の様な振動を伝えるエンジンを、
股下で弄ぶだけが、唯一無二の娯楽。
やがて前方の空は黒から青へと変化し、
ミラーの中では空が白んで行く。
そして空が明けきり朝となった頃には・・・
着いたぜ大山!
京都からは微妙に遠い大山、近くを通った事はあるけど進入した事のなかった大山。
休みの一日を凝縮して夏休みへと昇華させるに充分な避暑地にして中国地方最高峰。
展望台から日本海を望むと、すぐそこは島根県、そして手前が米子。
米子に住むお客さんに向かって、取り合えず手を振ってみる。
オ~イ、来ただよ~。
さて大山や蒜山と言えば?
ジャージー牛乳でしょう。
という事で牛を探して、高原を行く。
しかし、行けども行けども牛は居ない。
何故だ?まだ朝早過ぎるのか?
よく分からんけど、居ないものは居ないので、
大山をグルっと回り、
営業を開始した店を見つけ、
何は無くともソフトクリームを喰う。
美味いと言えば美味い。
しかし、牛を見ながら喰うと、
もっと美味かろうなぁ、とも。
でもやっぱ美味い。
出しなに地図を見ていると、
この辺りに昔の城跡があるとか。
岩山を見上げて思う、
「あそこが城やとしたら・・・鉄壁やな」と。
ただ、攻められないのは良いとしても、
自分が出入りするのも大変そうではある。
大山を後にして鳥取山中へ降りると、
温泉の看板がそこかしこに。
気付けばもう昼前なので、
露天風呂で軽く一っ風呂浴びてみる。
そしてサッパリしたなら軽く廃墟チェック。
うむ、これぞ正に夏休み。
鳥取と兵庫の県境に有る
人形峠と言う場所は、
日本で初めてウランが採掘された場所だそうで、
「いかにも」という感じの箱物が此処にも。
これは全国共通なんでしょうな。
日本原子力行政の創世記、
そんな資料が見られるのか?
と期待を胸に進入すると。
誰も居ない。
昼飯時だったからか、
受付のお姉さんさえ居らず、
「ま、適当に見てってね」
的な紙が一枚おいてあるのみ。
ポップな展示が悪夢の様で逆に怖い。
この施設の裏には、
「原子力環境技術センター」という、
割と広大な施設があり、
原子力利用の安全&環境技術が、
展示されていた跡があるものの。
今では電気も落とされ沈鬱ムード。
原子力利用の是非と言うのは、
自分の様な凡夫なぞにはとても分かり得ません。
が、明るい未来を夢見た事が、
過去にあった事は確かで、
ある種の努力が敗れた跡、というのは、
現在の光に対する影であるとしか。
こんなプロパガンダ全開のポスターには、
さすがに引きまくってしまうんだけど、
それでもまぁ「ご苦労様」と言いたい。
アンニュイな気分を土産に、
山陰の山の中をダダダダダダダダっ。
使われなくなったであろう、
養魚場の池には、
山から引かれた水が、
今も滔滔と流れ込み続ける。
信号も殆ど無い車も疎らな田舎道を、
迷路を縫うが如く東へ東へ。
視界の脇を流れて行く、
人の生活した跡を愛でる自分を、
悪趣味だ、と言う人もいるけれど。
「もし自分がこの場所を開墾した人間なら」
「もし自分が此処で生まれだったなら」
「もし自分が此処を捨てる最後の日を迎えたなら」
そんな自分が生きて来なかった、
「もし」の世界を重ね合わせて思いを馳せる、
それはそれで旅行だから勘弁して頂きたい。
人畜無害な事だしね。
日も沈み始めた頃、京都に帰着。
自宅を出てから約15時間、
メーター伸びる事700km少々。
あ~、夏休んだ~・・・。
少し前、知り合い周りで「誰か買いまへん?」と、
オファーしていたマイマシン。
飽きた訳じゃないし、何の問題があった訳でも無い。
けど、単純極まりないこのマシーンで、
「自分のニーズは完全に賄えている」
と、思い込んでいる己が何だか嫌。
他を認めず、内向いてしまうのは、
自分の様な生業においては良く無いと考えるから。
しかし久し振りに丸一日乗ってみて改めて、
「この子は良く出来た子だぜ・・・」と贔屓目を差っ引いても思ってしまったので、
暫くはこのまま思い込みの世界に浸って行こう、
そんな風にリセットした今年の夏休みでありました。
完